古くて角張った車のこと
12月はレコーディングをふたつ控えていて、この秋は作曲の秋。ただ、あまりにも音楽のことばかり考えるようになってしまうので閑話休題。
冬のレコーディングのひとつは、いつもお世話になっている杉並区某所のスタジオで。エンジニアMさんはvolvo240という車に乗っていらっしゃって、スタジオから最寄駅までのほんのわずかな時間ですが乗せていただいたことがあります。その車が無骨でそれでいて気品があるのです。そんなことを書くと私も幾分車に精通しているようですが全くそんなことはございませんでして、むしろ明るくないほうだと思います。
ただ、その角張った車だけは魅力的に映ったのです。そしてネットで簡単に調べてみると、あまり速く走れないと知りました。(いかにも速くなさそうなフォルムをしているのですが…!)
そして昔からスポーツカーを好きになれなかった性分なので(そもそも大きな音が苦手)そんなところも面白いと思ったのです。速さで圧倒するようなことをしたくないのは音楽も一緒で、スポーツカーが近代技術の象徴なら、その古めかしいボルボはそれに対するカウンターなのではないか。そういえばイングウェイとフェラーリはその点からして親和性があるのですね。
ところで私は世田谷線という二両編成のローカル線沿線に住んでいて、都市の速度も遅さというカウンターがあると思うのです。(戦前は下町にトラムが多く走っていたそうで、世田谷線に感じる居心地の良さを戦前の下町に想像したりします)それから、少し歩くと下北沢にも行けるのですが本当に踏切が減りました。踏切は単純に危険なので減らすに越したことはないと思う一方、踏切が街の速度をコントロールしていた側面もあるように感じます。ますます都市は速くなっていくに違いない。
それから、私のスポーツカーに対する苦手意識は音の大きさや速度だけではなくて、おそらくそこに結びつく記号が背景にあるはずです。それはブランドという言葉にも置き換えられるかも。価値が保証されるような仕組みが嫌いだったのかもしれません。
ブランドという価値の記号とは異なる、新しい価値を発見したいと思うのです。オルタナティブであり、ビザールであるものに新しい魅力を主体的に発見すること。
ここまで書いてもうひとつ思い出したことは、Mさんはビザールな楽器がお好きなのでした。